女装サロンでのアルバイトから、AV現場でのメイクなど、仕事の幅を広げていった山田はるかさん。後編では、山田さんが形にしたいという「女装社会学」、そして現代アーティストとしての今後の活動についてうかがいました。
お金が尽きて現代アーティストとしての活動をストップ
山田
で、経歴に戻るとメイクの仕事が増え始めたのが、28歳ぐらいで、そのぐらいで現代アートの展覧会の活動をストップしました
野口
え!ストップしちゃったんですか? いろいろやってましたよね? ヘルタースケルターのやつとか。
山田
そうそうそう。色々やってたんですけど、そのヘルタースケルターの作品で25歳の時に賞をとって、初めてコマーシャルギャラリーで個展をしたんです。
レイ
コマーシャルギャラリー! 人から頼まれて作品を展示するやつですね
山田
で、そのあと勢いづいて展示活動を色々やってたんですけど、もうお金が尽きちゃって…
レイ
うわ~。やっぱお金かかるんですね~
山田
私の作品は売れるような作品じゃなかったですしね。
野口
なるほど。
山田
そうなんです。あと私は現代アートの作品を売りたいとか別に思ってなくて、メッセージを発信することが第一だし、作品も一点物とかじゃないから、売りにくいっちゃ売りにくいんです。
レイ
身に着けるとか壁に飾るとか、そういうのじゃないですもんね。
山田
あ、でも25歳の頃に扇子の会社とコラボして、扇子作ったりはしました。
野口
見ました! 「petit pull sweets(ぷちプルスイーツ)」。すごい可愛いやつですよね?
レイ
企業とコラボしたんなら結構、儲かったんじゃないですか?
山田
いや、そんなにお金にはなってないです(笑)
レイ
そうなんですか?
山田
扇子が完成した後、扇子の会社の人に「月10万の固定給をあげるから営業に行ってくれ」って頼まれたんです。
野口
じゃあ営業に行って扇子が売れたら、その分いくらか入ってくるみたいな?
山田
いや、入らなかったです。でも売ってくれる場所が増えるっていう。
野口
なるほど、じゃあ売っても月10万、売らなくても月10万だったんですね
山田
そうです! で、別に営業行かなくても固定給もらえるから家で寝まくったんです(笑)
野口
めっちゃサボってるじゃないですか!(笑)
レイ
のび太~!(笑)
山田
だから私が会社員をやらない理由はそこでもあるんですよ! 固定給だと絶対頑張らないから…。
レイ
何もしなくても、お金入って来るなら寝ちゃおうっていう(笑)
山田
だから自分が頑張った分だけお金がもらえるフリーランスの方が自分の性にはあってると思います。
野口
売れる商品というよりかは、とにかく自分のメッセージを発信できる作品が作りたかったわけですね。
山田
はい。しかも、お金になる作品を作りたいとも思ってないですしね。でも、お金が本当になくなって、生きるのが辛くなって…。その時に、ちょうどメイクの仕事も増えたから、そっちに重きを置き始めたって感じです。
レイ
なるほど。生活のお金をいったん蓄えようと。
山田
でもメイクの仕事がこんなに増えるとは思ってなかったですね。メイクの現場に行くと「メイクさん」って呼ばれるんですけど、私的には結構、違和感があるんですよ。
野口
メイクが本業じゃないというか、メイクさんになろうと思って、なってないですもんね。
レイ
生活のためのお金を稼ぐ仕事、みたいな。
山田
やり甲斐はあるし、現場に行けば楽しいんですけどね。でも、メイクの仕事がメインの生活を一生続けるかってなると、それは違うかなって思いますね。
レイ
おお、そうなんですね
野口
何をやりたいんですか?
山田
やっぱり現代アーティストとしての活動をやりたいです。
野口
そこの気持ちはまだあるんですね。
山田
全然あります!というか、それが人生の軸ですね。生涯かけてやりたいのは創作活動です。アート以外にもやりたいことはたくさんあります。
女装業界13年で見えてきた「女装社会学」という切り口
野口
どんな事をやりたいとか、決まってるんですか? ぼんやりとしたビジョンでもいいんですけど。
山田
いろいろのうちのひとつで、「女装社会学」という本や論文を書いてみたいですね。女装を社会学的な見地からアプローチしたいんです。
野口
それは女装の人をたくさん見てきたからですか?
山田
そうですね。女装の人と交流を重ねてきて、感じたこと、気づいたことがあるからです。
野口
それを社会学と言う切り口で!
山田
はい。女装文化を見ていると、社会情勢や経済情勢の縮図と言いますか、時代時代の情勢と結びついているように見えるんです。
野口
社会の変化が女装文化に影響を与えているってことですか?
山田
そうです!
レイ
具体的にどんなことが影響を与えていると思ったんですか?
山田
私は女装業界に足を踏み入れて13年目なんですけど、昔と今とでは女装界もだいぶ変わってきたと思います。ネットの普及・SNSの普及によって、水面下だった女装界隈が表に出てきましたね。ネットのおかげで服もメイク道具も買いやすくなったし、YouTubeでメイク動画が見れることも、大きな変化をもたらしたと思ってます。
野口
動画でメイクの勉強は自分でできちゃいますしね。
山田
私が去年出版した『SNSで「イイネ!」がもらえる女装レベルアップテクニック』では、今現在の女装の方々の活動拠点になりつつあるSNSで、映える為の内容を書きました。
レイ
はるかさんの本、私も購入しましたけど、女装の人はもちろん、女性が読んでも為になる情報がたくさん載ってて勉強になりました。それに昔に比べて『メイクは女性のもの!』って価値観、なくなってきましたよね。
野口
はるかさんは女装業界の時代の流れを、女装業界にいる人間として肌で感じたんですね。
山田
はい。”男の娘”と書いて、”オトコノコ”と読む言葉が女装界隈で一般的になってきてから女装という文化が身近になってきたし、若い子が気軽に参戦するようにもなってきたかな。男の娘で有名な大島薫ちゃんの存在も大きいと思いますね。
野口
なるほど。たしかにここ10年ぐらいの社会の変化とリンクしてるような気がします!
レイ
他にはるかさんが気づいたことはありますか?
山田
私は景気と女装人口が反比例してるのでは、と数年前から考えていて、そういう事もいつかちゃんと書けたらいいいな~と思っています。センシティブな内容なので、しっかり固まってない今は言えないですが、これからしっかり考察していきたいですね。
レイ
ちなみに「女装社会学」って言葉はあるんですか?
山田
ないから勝手に作りました(笑)
野口
じゃあ、これを見た出版社の人が、ね…(笑)
山田
そうそう!(笑)本当に、いつか女装社会学についての本を出したいんですね!女装社会学の考察は現代アートの制作活動でも活かせると思うんです。
野口
そういえば最近、歌謡ユニットみたいな活動もしてますよね?
山田
はい! 私とAV監督の犬神涼さんとただのおじさんの平ちゃんと「SHOと涼子と平ちゃんと」っていう歌謡ユニットを組んでますまあ私と言うか、華妖.vijuのSHOがね(笑)
レイ
CDも出してるんですもんね!
野口
みなさんぜひ買ってあげてください!(笑)
「誘われたら行ってみる精神」が現在につながっている。「今後はまた現代アートの活動もしていきたい」
野口
じゃあ、はるかさんの今後の目標は現代アートの活動に力を入れていくということですね。
山田
そうですね。でも現代アートの活動をするにあたって、お金をどうするかっていうのを、すごく悩むんですよね。それは現代アートを始めたときから悩んでるんですけど。
野口
確かに、そこはシビアな問題ですよね。
山田
現代アートの活動をしてきて、私は途中でお金稼ぎに走りましたけど…
レイ
そんな言い方!(笑)
野口
悪い事じゃないですから!(笑)
山田
でも、現代アートだけやってきた人は売れてきてるんですよ。
野口
へ~! なるほど。
山田
かつての仲間たちが、いい所で展覧会やったり、あいちトリエンナーレとかに出たりしてて、いいなぁって思ったりするんです。でも、その人たちの実情を聞くと日雇いのバイトをしてたりとかするんですよね。
野口
なるほど…難しいところですね。決して華やかな面だけではないという。
山田
だから現代アートだけで食べていくのは、すごく大変なことというか。お金を稼ぐことと、作品を作ることが必ずしもリンクしないですし。
レイ
作るほどお金が生まれるわけじゃないですもんね。
山田
だから今後、現代アートとかやっていくにしても、お金を稼ぐにはどうしたらいいんだろうっていうのは課題ではあります。
野口
なるほど。
山田
でも私は貧乏生活しながら現代アートをやるのは、もうしたくないんです。子供の頃に貧乏を味わったから、もう嫌なんです。(笑)
レイ
今の生活水準を保ちつつ現代アートをしたいんですね。もし、お金が自由に使えたら、どんな作品を作りたいですか?
山田
それは、やっぱりジェンダーの事ですね。
野口
へ~! 本当にもう、それが根底なんですね。
山田
はい、永遠のテーマですね。
野口
ここまで話聞いて思いましたけど、はるかさん本当にアクティブですよね。扇子の営業以外は本当にアクティブ!(笑)「AV監督に呼ばれたから、とりあえず行ってみる」とか。それが今につながっているわけですもんね。
山田
そうですね。「誘われたからとりあえず行ってみる精神」ですね。
レイ
はい! アクティブさと行動力で道を切り開いていてすごいです! 今後のはるかさんの現代アーティストとしての活動が楽しみです!
野口
放送作家として手伝えることがあったら言ってくださいね! ギャラはしっかりもらいますけど(笑)
取材を終えて
芸術家というと気難しくて扱いづらそう…みたいなイメージがありますが、山田はるかさんは「超気さくな親戚のお姉さん」みたいな感じの素敵な方です。そして何よりすごいのが行動力。興味を持ったことには何にでも飛び込んでいくアクティブさには尊敬の念を抱きますし、いつも刺激をもらっています。そんな山田はるかさんが現代アーティストとして今後、どんな作品を作っていくのか友人として、山田はるかファンとして楽しみです。
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