現代アーティストとしての活動の他、プロのメイクアップアーティストとしても活躍中の山田はるかさん。中編では、女装サロンやAV現場での仕事との出会いについてうかがいました。
芸術家として活動しながら、女装サロンでアルバイトを始める

野口
美大を卒業した後は、どんな活動をしてたんですか?

山田
バイトで生計を立てながら現代アートの作品を作って、卒業から2年後くらいに展覧会を開きました。

野口
それはどういうコンセプトの展覧会だったんですか?

山田
歌手の友達が妊娠して、お腹が大きくなっているのを題材にしたものでした。

レイ
はるかさんのサイトに載ってる「もう私はあなたを産むことができない」ってやつですよね。

野口
あ! 事前にはるかさんについて調べてるときに見ました! それが最初だったんですね。

山田
それまでにイベント出たりなんかはしてたけど、ちゃんとした展示はそれが初めてでした。バイト3つやってたし、それでいっぱいいっぱいになってて。

レイ
なんのバイトしてたんですか?

山田
あ、でも美大卒業して、最初は新卒で4ヶ月だけ就職してました。

野口
え! そうなんですか? なんの仕事してたんですか?

山田
PRプランナー。給料泥棒だった(笑)

野口
(笑)

山田
初日から辞めたいと思ってました(笑)

野口
早っ!!

野口
で、PRプランナーの会社を辞めて、バイトを始めたんですね。

山田
1つは美大の頃からやってた新宿3丁目の飲み屋で、それは6年以上やってました。

野口
へー、長い。

山田
あと、レコーディングスタジオの受付もしました! GACKTさんとか、色んな有名人見ましたよ!

レイ
おお! すごい! MALICE MIZER(マリスミゼル)ファンにはたまらないですね!

山田
あと、女装サロンの仕事もこの時に始めました。

野口
そうなんですか! そのタイミングで?

山田
はい。で、女装サロンの仕事は10年以上やってました。

野口
女装サロンは、何がキッカケで始めたんですか?

山田
女装サロンは美大の時に、そこの女装サロンを見つけてたんです。女装のことは調べてたんで。

レイ
え! 興味があったんですか?

山田
興味ありました。美大に入った当時は自分があまりにも恋愛をしないから、自分がレズなんじゃないかとか、そっちの方向に頭が働いてて、新宿2丁目界隈を色々調べてたんです。

野口
LGBTQの人が多いから。

山田
そうそうそう。あとドラァグクイーンの人とも高校の時に知り合って、美大の時からお手伝いとか始めてたんです。だから、その界隈のカルチャーにはすでに触れていたんです。

野口
へー。

山田
で、その延長で女装サロンについても調べてたんです。
女装サロンに来た、忘れられない盲目のお客さん

レイ
で、その3つのバイトの中で、女装サロンにハマったわけですね。

山田
そうですね。「面白い!」と思いました。

野口
メイクはもともと好きだったんですよね。女装の人はしっかりメイクする人多いし。

山田
そうですね。人にメイクして仕事をしたいとは思ってなかったけど、女装のおじさんの生態を知りたいから、働き始めました。そしたら、メイクと撮影をすることになって。

野口
でも、同じバイトが10年続くってすごいですよね。どんな人がお客さんとして来てたんですか?

山田
そこのサロン、いま思えばキャラの強い人が多かったですね。

レイ
例えば、どんな方がいたんですか?

山田
緊張しすぎて吐いちゃった方もいましたね。

レイ
それ浦安鉄筋家族の話ですか!?(笑)

山田
今ほど女装がメジャーじゃない時だったから、ヤクザが出てきて騙されるんじゃないかとか思っても仕方ないですよね。

レイ
まあ、緊張しちゃうのは分かりますね。他にはどんなお客さんがいましたか?

山田
常連さんで、盲目の人がいました。

野口
女装する?

山田
そうです。2人いました。

野口
2人!?

野口
でも盲目だと「男である自分の姿」も見えてないわけじゃないですか?それで女装しても「変わった」って思うんですか?

レイ
確かに女装は「見て楽しむ」部分が大きいですもんね。鏡で自分の姿が見れないと楽しめないんじゃ…って思っちゃいますよね。

山田
その盲目の人の1人はおじいさんだったんだけど、エプロンフェチでデパートとかで、いいエプロンを買ってくるんですよ。で、何を着ても上にエプロンをつけたがるんです。

野口
へー。どんな服にもですか?

山田
ウエディングドレス着ても、制服着ても、上にエプロンをつけるんです。

野口
へー!どういうこだわりなんですかね?…素材?

レイ
家庭的な感じとか?

山田
あー、そうですね。考え方が古い人だったから、「家庭的な女」にあこがれてる節がちょっとあったんだと思います。あくまで私の推測ですけど。

レイ
不思議~。その人に取材したいぐらいですね。目が見えないけど、女装が好きで、エプロンフェチ…。

野口
その人にしか分からない魅力があるんでしょうね。

山田
その女装サロンでは色んな人に巡り会えましたね。
誘われたので軽いノリで行ってみたら、AVの現場でメイクの仕事をすることになった

野口
はるかさんは、そのあとAV現場でメイクの仕事もするじゃないですか? それは何がキッカケなんですか?

山田
バイト先の先輩が役者をやってて、客演で他の劇団の舞台に出たんです。その時の劇団の主催者がAV監督で、舞台を見に行った時に紹介してもらったんです。

レイ
へー。

山田
で、私の展覧会とか見にきてくれるようになったりとかして、そこから数年して、そのAV監督が縄のAVを出すときに…

レイ
緊縛モノの?

山田
そうです。で、その時に「女装サロンでメイクしてるんだったら、ちょっと手伝ってよ」って言われて、何にも知らないまま撮影現場に行って、そこでメイクをしたんです。

野口
それは女装の人にですか?

山田
その時はAV女優さんにメイクしました。でも、女装する男の人にメイクしたことはあっても、女性にメイクしたことは、ほぼないから「全然違う!」って思いました。

レイ
そうですよね!女の人は最初にひげ隠すために口周りにオレンジ塗らなくていいんですもんね!

山田
そうそう(笑)化粧ノリがよくて、すぐ化粧が乗るからビックリしちゃいました。

野口
メイク仕事のデビュー戦は、「ふいに訪れたもの」だったんですね。

山田
しかも女装サロンの時は、おじさんにウィッグ乗せるだけだから地毛のアレンジとかをしないんです。だから、女性のヘアメイクに関してはズブの素人だったんです。

レイ
メイクはできても、髪に関しては経験がなかったわけですね。

山田
で、しばらくたって、その時に一緒だった制作の人から、「韓国のVシネマの撮影でメイクやってくれないか」ってオファーが来たんです。

野口
へー。

山田
今思えば、ギャラが超安かったから他のメイクさんが見つからなかったんだと思うんですけどね。

レイ
なるほど。

山田
私は、その時「メイクの仕事したい」とか思ってないから「誘ってくれたから行くか」ぐらいの感じで引き受けたんです。そうやって、ちょろちょろとメイクの仕事に誘われる機会が増えてきたんです。

レイ
ヘアメイク苦手問題は解決してたんですか?

山田
やっぱりヘアメイクは苦手だったから「髪の毛、巻かないんですか?」って女優さんに聞かれたら「いや、ストレートでって言われてるんで」って言って乗り切ってました。(笑)

野口
それ、乗り切れてます!?(笑)

山田
撮影には全く、問題も支障もなかったんでそう仕向けてましたね(笑)というか、私は別に「メイクの仕事したい」って考えていたわけじゃなかったし、他のメイクさんよりできない事がいっぱいあるから、「アイツ下手だ」って思われて仕事が来なくなるだろうって思ってたんです。

レイ
なるほど。

山田
そしたら予想に反して、メイクの仕事がちょいちょい来るから「こりゃヤバいな」と思ってヘアメイクの練習をし始めました。

野口
へー。

山田
今思えば、ヘアメイクできない状態でよく行ってたなって思います。

レイ
その状態で飛び込むのは凄い勇気ですよね

山田
だからニューハーフAV女優にブチ切れられたこともあるし、他のAV女優にキレられたこともあります(笑)

野口
マジっすか!?「髪が気に入らねえ!」みたいな感じですか?

山田
そうです。そういう修羅場もくぐってます。

野口
くぐりましたね~(笑)

レイ
女優さんの機嫌を損ねたらAVの現場では最悪ですもんね。

山田
昔に比べたら少しはヘアメイクもできるようになったけど、他のメイクさんと比べると、髪の毛でできないことはいっぱいあるから、そこに関しての劣等感は消えないです。

野口
そうなんですね。

レイ
はるかさんのメイクの話でいうと、前に聞いた「女性のメイクと男性のメイクは用途も違うし意味も違うし、全然違う」っていう話が面白かったんですよね。

山田
方向性が違いますもんね。

レイ
女性は自分の顔のバージョンアップですけど、男性は180度「バーン!!」って変えるのでメイクの意味がそもそも違うって言ってましたよね。

山田
そうですね。だからこそ女の人にしかメイクしてない人が、急に女装のメイクすると、可愛く仕上げるのは難しいと思います。女性にするナチュラルメイクとは訳が違いますから。

野口
味付けが違うんですね。

山田
そうそうそう。女優さんとかモデルさんって可愛い人が来るじゃないですか?でも女装はおじさんですからね。

野口
素材も違う(笑)

山田
あと、かわいい男の子だとしても、ちょっとぐらい盛らないと映えないんですよ。

野口
なるほど。かわいいとはいえ、骨格は男の骨格ですもんね。

山田
私はそういう女装メイク出身だから、女性のメイクはまだ慣れてないっていうか…

レイ
難しいんですね。

山田
で、経歴に戻るとメイクの仕事が増え始めたのが、28歳ぐらいで、そのぐらいで現代アートの展覧会の活動をストップしました。

野口
え! ストップしちゃったんですか!?
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今回はここまで! 次回は現代アート活動をストップした理由や今後の目標について聞いていきます。
「不景気になると女装が増える」。山田さんが形にしたいという「女装社会学」とは?
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